#1 嘉門
パソコンに向かって話している嘉門。
ディスプレイには高校時代からの親友、関町が映っている。
関町「でさ、インドかな? どこだっけ? あれ、忘れた。どこだっけ?」
嘉門「いや、なんの話だよ」と、缶ビールを飲む。
関町「まぁいいや。なんかインドかどっかの国でさ、元カノとか元カレとかに会うイベント的なやつがあるんだって」
嘉門「それって何のために?」
関町「何のためって。そりゃ決まってるだろ、懐かしの相手とたまにはってやつじゃねーの?」
嘉門「マジ? そんなの行くやついんの?」
関町「いや、いるだろ。実際めっちゃ人いたし」
嘉門「マジ? 別に会いたくないだろ、別れた相手とか」
と言う嘉門だが、関町が元カノと言ったと同時にひとりの女性を思い浮かべていた。それは嘉門の元カノで半年くらい前に別れたイチコのことだ。
関町「いや、嘘つけよ」
関町の言葉にハッとする嘉門。
嘉門「・・・なんだよ嘘って」
関町「フリーズしてて、なんだよじゃねーよ」
嘉門「・・・してねぇーよ」
関町「まぁいいや。そんな事よりさ、聞きたくない? 俺とミランダカーの最新の話」
嘉門「・・・(小声で)いや、お前近くに小春ちゃんいないの?」
関町「いないいない。さっき杏寝かしつけに行ったから」
小春ちゃんとは関町の奥さんで、杏ちゃんとはひとり娘だ。
ちなみに小春は嘉門と関町と同じ高校で、小春はその学年のマドンナ的存在だった。そんな小春がまさかあの関町と結婚するなんて、と嘉門たち同級生はみんな落胆した。
しかも、大学4年生になった年に妊娠がわかり、小春ちゃんは早々に大学を辞め出産した。そして今は、5歳になった杏ちゃんを育てるママで美人は健在だ。そんな小春ちゃんを他所に、関町は後ろ姿がミランダカーに似ているという職場に入ってきた新入社員の話をしようとしている。
関町「その前に俺ちょっとトイレ」と立ち上がり画面から消える。
嘉門は、ビールを飲み干し冷蔵庫からビールを取り出し戻ってくると、ディスプレイの中で小春が笑顔で手を振っている。